2017.05.19
事前指示のすすめ
エンディングノートは有効な「事前指示書」と言えるのか
シニア世代がエンディングノートを書き始めるとき、特に関心度が高い項目として、「大切な人へのメッセージ」「相続問題」についで、「終末期の医療に関する希望」が挙げられます。
誰も、無駄な延命措置による、堪え難い苦しみを望まないし、また最愛の家族に精神的・経済的負担を掛けたくないと思うのは当然でしょう。
そして、自ら安らかな死を求めて、エンディングノートの「終末期の延命措置を拒否」を意思表示するチェック欄に印をつける訳です。
しかし、この方法で本当に良いのでしょうか。
さて、この医療の「事前指示」とは、将来、本人が意思決定能力を欠く状態になった場合に備えて、事前に、自らの医療に関する希望を文書で表明することで、万が一、自発的に意思決定できなくなった時、医療者や家族が本人の意思を知るための手段です。
エンディングノート「事前指示」の問題点とは
それでは、この医療の「事前指示」の定義に基づいて、エンディングノートの「事前指示書」としての問題点を5つの視点から考えてみたいと思います。
①エンディングノートには、終末期医療の情報を簡略化した「チェック項目の選択式」が多く、医療者が臨床の判断で有効に活用できる適切な文書とは言えないということです。
例えば、「(不治の病であるとき)告知しないでください」という項目にチェックがされていても、医療者は、本人の意思決定プロセスが明確でなければ、安易にその指示に従えないのです。
すなわち、医療者は、本人と話し合うというプロセスを通して、患者の考えを深く理解し、複雑な状況に対応可能になるのです。
②エンディングノートの記入者が、医療者などの専門家から説明を受けていない場合、「終末期医療の内容を十分に理解して意思決定をした」と言えるかどうか疑問だということです。
本人が終末期医療の状況を予想することは、とても困難なことです。
すなわち、本人がヘルスリテラシーという、健康情報を入手、理解、評価する能力を高めることは容易ではないのです。
③エンディングノートの「事前指示書」が記入された時点から、終末期の無意識状態になり、「事前指示書」が必要となるまでの期間が長期にわたる場合、本人が想定した病状や治療方法および社会生活について大きな変化が生じる可能性があるということです。
また、本人の意思は、常に変わる可能性があるということにも注意が必要です。
例えば、本人は、健康時には将来の医療処置による障害を受け入れらなくても、その状況に直面すると受け入れることができるかもしれません。
④エンディングノートの「事前指示書」を根拠にして、家族が自らの利益につながる「医療処置やその中止」を主張した場合、「利益相反」となって本人が不利益を被る結果になりかねないということです。
すなわち、「事前指示書」が独り歩きして利用される可能性があるのです。
⑤エンディングノートの「事前指示書」は、本人が安易に記入できる反面、本人や関係者がその意思表示に縛られ「医療処置の中止」などの指示が固定観念化されれば、家族が本人の意思として、その実施を強く望み、終末期医療における医療者の柔軟な対応を妨げる可能性があるということです。
インフォームド・コンセントとは情報共有と同意
医療の「事前指示」を有効なものにするためには、まず、柳田邦男氏が提唱する2・5人称の主治医を持つことが必要だと思います。
そして、本人と医療者との対話による情報共有である「インフォームド・コンセント」の考え方が重要になってきます。
「インフォームド・コンセント」とは、「本人が医療者から自分の病気の状態、それに対する施術や投薬などの治療法の種類、それらの長所短所、そして病気の経過、結末の見通しなどの予後に関して情報を与え、それを十分に理解した上で、医療者が示す治療行為のいずれかに対して、本人が自由意思に基づき同意を与えること」です。これは、患者の自律性と自己決定権を尊重する思想であり、医療者は本人の同意した事項に従って治療にあたることを義務づけられるのです。
アドバンス・ケア・プランニングは長期的視点でケア計画を考えること
そして「インフォームド・コンセント(説明→理解→選択→同意)」を進めるなかで、本人の加齢や病状の進展に伴い、代理人の役割が重要になってきます。
そこで医療の現場で注目されているのが「アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)」です。
ACPとは、医療者が本人・家族と話し合いを通して情報を共有し、本人の価値(人生観)を確認し、個々の治療の選択だけでなく、本人の意思決定能力低下に備えて、「事前指示(アドバンスディレクティブ)」を含む治療・療養の全体的なケア計画を事前に考える自発的プロセスのことです。
そして、ACPによって、本人の“自己決定”を尊重し、家族が本人の意思を代理人として“補償”し、そして医療者が医療行為の“最適化”を目指すことが重要だと思います。
高齢になれば、いくら元気であっても、心身の機能低下は避けることはできません。
その衰えていく段階に合わせて、医療・看護・介護など関連職種が連携し、本人・家族と話し合い、治療方針を決めて終末期に備えること、すなわちエンドオブライフ・ケア(End of Life Care)の思想が大切ではないでしょうか。
そして、この終活コラムで何度も述べているように、エンディングノートの医療の「事前指示」に限らず、すべての項目に長期的視点に基づく「本人、代理人、専門家の三位一体モデル」の適応が必要だと思うのです。
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