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2017.04.02

尊厳死と安楽死の違い

海外では、「尊厳死」は医師幇助自殺

これまで「尊厳死」と「安楽死」という言葉は、日本において社会的に定義されたものではなく、マスコミなどで間違った使い方が見られます。
歴史的にみれば、「尊厳死(Death with Dignity)」という言葉が日本で登場したのは、1976年のカレン・アン・クインラン裁判に端を発した、米国の「死ぬ権利」運動を報じた朝日新聞の報道でした。
そして、1997年、世界で先立って医師幇助自殺(physician assisted suicide)を合法化した米国オレゴン州の法律(Oregon Death with Dignity Act)は、「オレゴン州尊厳死法」と訳されました。ですから海外では、「尊厳死」は、医師幇助自殺を意味しているのです。
 
ひるがえって、わが国において1976年に設立された「日本安楽死協会」は、当初、医師が終末期の患者に致死薬を投与する「安楽死」や自殺幇助の合法化を目指す団体でしたが、1983年に「日本尊厳死協会」と名称を変更し、現在、その方針を変えて“延命治療の手控えや中止”を「尊厳死」(海外の定義とは違いう)として合法化を目指しています。
このような「尊厳死」と「安楽死」という言葉の国内外の歴史的背景や使い方の違いを理解していないと、「尊厳死」と「安楽死」を同じ意味で使ったり、入れ違えたり、とんでもない誤解を招くかもしれません。
 

日本では、「尊厳死」は消極的安楽死(治療中止型安楽死)

現在、「尊厳死」を“消極的安楽死”として「安楽死」に含むという定義が一般的となりました。
この根拠となるのは、1995年の横浜地方裁判所の判例(通称:東海大学安楽死判決)において、安楽死を三つに分類した司法の考察に基づきます。
 
①不作為型の「消極的安楽死」:患者の苦痛をながびかせないという目的のため、行われていた延命治療を中止して死期を早める。
 
②治療型の「間接的安楽死」:とりあえずは苦痛の除去・緩和するための措置をとるが、同時に死期を早める可能性が存在する。最近では、終末期鎮静という医療行為として広まっています。
 
③「積極的安楽死」:苦痛から免れさせるため意図的且つ積極的に死を招く措置をとる。
 
「積極的安楽死」は、日本では違法であり、これは刑法199条の殺人罪、たとえ患者が望んでいたとしても、医師が自殺を手助けする行為、すなわち自殺幇助は、刑法202条の同意殺人(嘱託殺人)であるとなみされます。
ですから、海外における、例えば、ベネルクス3国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)の「積極的安楽死」の合法化とは、日本は一線を画しているのです。

生命倫理4原則の視点から「尊厳死」を考える

今日の「安楽死」(英語:euthanasia)という言葉のもとになったギリシャ語「エウタナーシャ:幸福な死」が語源です。
安らかに死を迎えることは、高齢者の誰もが望むところでしょう。
しかし、医療技術の飛躍的な進歩によって、多くの命が救われる半面、安らかな死を妨げる過剰な医療や延命措置を受ける可能性も皆無ではありません。
現代社会においては、患者に治療拒否権を認めることこそ倫理的だとする考えが強くなり、米国において、1960年代に人体実験と見做されるべき臨床研究が問題視されたこともあり、「生命倫理4原則」が定められました。
 
その原則とは、①自律尊重(Respect of Autonomy)、②善行(Beneficence)、③無危害(Nonmaleficence)、④正義・公正(Justice)の4つです。
 
ここで、尊厳死(消極的安楽死)と積極的安楽死を「生命倫理4原則」の視点から、考えてみたいと思います。
 
①自律尊重:患者自身が医療について、選択する権利を尊重することです。
「積極的安楽死」については、自己決定が尊重されますが、その許容性は極めて慎重に検討が求められます。
東海大学安楽死判決では、①耐えがたい肉体的苦痛がある。
②患者の死が避けられず死期が迫っている。
③患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段がない。
④患者本人が安楽死を望む意思を明らかにしている。
以上の4要件が示されました。
しかし、日本では、これまで「積極的安楽死」が許容され、医師が無罪となった判決はありません。
 
②善行:患者の利益を考えることです。患者の利益とは、医療者の考える患者の利益だけではなく、患者の考える利益とを比較考量する必要があります。
医師は、延命治療の中止に関してはケースに応じて個別的に対応するしかありません。
東海大学安楽死判決によって、尊厳死(消極的安楽死)や間接的安楽死における、第三者による「患者の意思の推定」が許されたことが、この原則に重要性を与えたと言えます。
しかし、たとえ家族の「患者の意思の推定」に基づく、また医学的には妥当な延命措置の中止であっても、現実的には、相続問題に大きな影響を与え、その「善行(尊厳死)」が患者とっては「害(相続問題)」となる場合もあります。
その意味では、次の原則「無害」が重要になるでしょう。
 
③無危害:できるだけ患者に危害を加えないように努めることです。
この原則は「命を奪わない」「痛みを与えない」「大切な機会を失わせない」など、いろいろな意味を含みます。
日本の終末期の医療において、延命至上主義への反省から、胃ろうや人工栄養によって延命を図ることが、非倫理的で、虐待となりうるという欧米の思想も再考の余地があるようにも思えます。
また、患者が「相続問題」など社会的苦痛やスピリチュアルペインを抱えている場合、全人的苦痛の「解決の機会」を奪わないという配慮も必要でしょう。
 
④正義・公正:すべての人を公平に治療するため、優先順位をつけて医療資源を適正に配分することです。
この原則は、分かりやすく極限的事例を挙げれば、トリアージ(triage)―戦闘や災害のため、一時に多数の負傷者が発生したとき、緊急度と重症度に応じた適切な治療を行うことを目的に、負傷者を選別して、搬送や治療の優先度を決めること―の考え方です。
近年、多死社会を迎え、終末期医療費が増加しています。
生命倫理の問題が、「尊厳死の法制化に伴う医療費削減」という医療経済の問題になると、その前提として社会的弱者対策が必要になるでしょう。
 

QOL(人生の質)とQOD(死の質)

厚生労働省によって「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」(2007、改訂2015)が策定されました。
すでに、欧米では、尊厳死の概念は、終末期における延命処置の差し控えから、苦痛除去による結果としての生命短縮、積極的な致死薬の投与、そして医師介助自殺までの広がりがあります。
しかし、このガイドラインは、「積極的安楽死」を想定していません。
 
近年、終末期医療におけるQOL(人生の質:Quality of Life)が求められていますが、その最後に必ず到来するQOD(死の質:Quality of death)、尊厳死(Death with Dignity)につても考えて論議を深めて行く必要があるように思われます。
 

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